狐羽噺

狐羽の台本製作所

狐羽-kohane-

金木犀の夢



女1:男1:不問1 /計3人



幸/幸音:♀    ゆきね
雪/雪那:♂    ゆきな


猫/猫:不問



@←夢の中のもう一人の幸
※←食い気味



金木犀:初恋、真実の愛、陶酔


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幸N「ふわふわ浮かぶ記憶達はどんなに優しく触れても弾けてしまう。
私の中の思い出はそんな危うさを抱えている
この思い出達を守る為に何か出来ないだろうか
他人には理解出来ないような小さな小さな思い出さえ
私の大切な宝物なのだから。」



雪「おはようゆき。今日も綺麗な青空だよ」


幸「おはようゆき。今日は雨よ」


雪「そっか。今日は雨か」


幸「そうよ。曇りのせいで水色がこれっぽっちも見えないわ」


雪「じゃあ水色の傘で出掛けよう」


幸「そしたらきっと楽しいわね!」


雪「僕は幸と一緒ならいつでも楽しいよ」


幸「私もよ。雪あなたと居られればそれでいい」



雪N「彼女は記憶に囚われている
僕が助けてあげる事はもう出来ないのだ。
彼女を縛る僕の記憶はもう無いのだから。」



雪「ねぇ幸。待っていて。
僕が君の眼にまた映るその時まで


桜散る下愛届くまで」


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猫「雨が降っている。
乾きを誤魔化すには実に都合の良い日であった。」


猫「にゃーお」


雪N[ふと、猫の鳴き声が聞こえる時がある。
彼女と繋がることが出来るのはいつもこの時だった」



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幸「雨の日にこんなに楽しいのは初めてよ。
ありがとう雪。雪はまるで魔法使いね!」


雪N「この日の彼女の夢は僕と初めて出かけた日の記憶だった
雨が降っていたこの日は、彼女の顔を認識するのが困難だったのを覚えている」


幸「どこ見てるのよ雪!私はこっちよ」


雪「あぁ。ごめんね。今日は特に見づらいんだ」


幸「雨だもんね。あー早く止まないかなぁ
そしたら雪と目が合うのに」


雪「そうだね。でも雨は嫌いじゃないんだ。
雨の匂いが好きなんだ」


幸「匂い?」


雪「そうだよ。目が見えない分匂いを感じやすいんだ」


幸「何だか素敵ね。雨の匂いなんて嗅ごうとした事無かったわ」



雪N「その時は唐突に訪れた。
灰色の雲を掻き分けて青い光が彼女に降り注ぐ」


猫「にゃはははは!!」


雪「ねこぉ!!!」


猫「また会ったにゃあ。小童よ。
彼女を助けたいのか?なら何をすれば良いか分かるだろう?」


雪「まだ僕の目は見えるぞ。
僕の視力を代償にするがいい」


猫「にゃはは!!お前もつくづく馬鹿だにゃあ。
あの小娘の為に何故そこまでするのだ。
今回は前回みたいに蛇に噛まれたぐらいじゃないんだぞ。
今度は確実に目が見えなくなるにゃ?」


雪「それで良い。僕にはもう彼女しかいないんだ」


猫「はぁ。わかったにゃあ。今回だけは敗けてやるにゃあ
少し視界が狭くなる。それでも良いにゃ?」


雪「…..何故?僕は彼女の為なら何を失っても良いというのに」


猫「今払ったら今後彼女の顔を見れなくなるにゃ。
我は猫だが恋くらいしたことある。
まだ笑顔を見つめるくらい許されるさ」


猫「でもきっと..後悔する時がくる」


雪「それはどういう…?」※


幸※「雪?聞いてる?」


雪「…..っ!!幸!!大丈夫?どこも怪我してない?」


幸「ふふ…可笑しな雪
ただ傘を持っていただけで怪我するなんて
私って凄くドジなのね」


雪「そっか。そうだよね..ははっ僕ってたまに可笑しいんだ」


幸「そうね。でもそんなとこも素敵よ」



雪N「僕の何かと引き換えに彼女の記憶は守られる。
でも、そんな事が気にならないくらい僕には大事な思い出で
それはきっと彼女も同じだから。
彼女との大切な記憶は彼女の中に綺麗にしまっておきたいのだ」



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幸「ねぇ雪。お願いがあるの」


雪「どうしたの?幸。僕に出来る事があるなら何でもするよ」


幸「ありがとう雪」


雪「いいんだ。それでお願いって?」


幸「私…最近怖いの」


雪「何が怖いの?」


幸「眠るのが怖いの」


雪「眠るのが…?
……どうしてだ..僕はいつも夢を守ってきたはずなのに。」


幸「雪?」


雪「いや、何でもないよ。…それで..どうして眠るのが怖いの…?」


幸「あのね…」


雪「……..。」


幸「私の夢の中にはね、いつもあなたが出てくるの。
私の夢はいつも幸せな記憶で辛いことがあった時私を支えてくれる

でも、、でもね最近私の眠る時間が伸びているの。
夢の中のあなたはいつも素敵で、とても楽しくて
目覚めたくなくなってしまう。
そうしたら私、もうあなたに会うことが出来なくなってしまうかもしれない。
それが怖いの。
……ねぇ、お願い。
いつも夢に出てくるあなたなら私の夢を壊せるかもしれない。
雪なら私の夢に入れるかもしれない。
雪にしか頼れない…私の幸せな夢を壊して……」


雪「そんな……」


幸「雪?どうしたの?」


雪「幸…幸は僕との記憶を消したいっていうの…?
僕との大切な思い出を!!!!
どうして…幸…….」


幸「ごめんなさい..!!!そういうつもりじゃなくて…」


雪「僕が守ってきた思い出を…」


幸「私にはあなたより大切なものなんて無い。
夢よりも、思い出よりも、雪が大切なの…!!」



猫「崩すのだけはいつもいつも簡単だから」



雪「分かったよ。僕に出来る事は何でもするよ」


幸「………..っ。ごめんなさい」


雪「いいんだ。」


幸「……。」



猫「お姫様の仰せのままに……にゃはは
さぁ、ひと鳴きするか。」


猫「にゃーお」



==================



雪「ねこぉ!!!」


猫「なんだにゃ…そんな大声じゃなくても聞こえてる」


雪「僕はどうしたらいいんだ…
彼女の為と思っていたのに…幸は…僕との思い出なんてどうでも良かったんだ..」


猫「我は言ったぞ。後悔するって。
ただ少しだけ忠告が遅かったかもしれないけどにゃ」


雪「全て僕のせいだっていうのか…?」


猫「そうともいうにゃ」


幸「雪!!今日はとっってもいい天気ね!!
この間のお昼寝も気持ちよかったけど今日は外で紅葉狩りでもしない?」


雪「…この日…
この記憶は僕の…一番大切な思い出..
瞼を閉じると浮かぶのはいつもこの日の笑顔だ」


猫「運命とは残酷だにゃぁ」


雪「運命なんかじゃない。
もう過ぎた日のことだぞ…猫、お前が操っているんだろう?
どうして一番大切な思い出を壊させようとするんだ..!!」


猫「何のことだか」


雪「…僕には無理だ…!…..っ。壊せない……」


幸「雪?こんなに綺麗なのに下ばかり見てたら勿体ないわ。
それとも..今日眼の調子良くないの?」


猫「ちゃんと会話しないと特別な記憶がただのつまらない記憶になってしまうにゃ」


雪「ぶっ壊すよりはそっちの方がマシだ」


猫「そうは思わないにゃ。
記憶を壊すとその記憶は泡となって消える。
だが中途半端に書き換えると未来が変わる。
次奴と話すときにはもう赤の他人になっている事もありえるぞ」


幸「もしかして楽しくない….?」


雪「そんな事ないよ。
幸がいればいつでも楽しい。
だからお願い。僕の前では笑っていて欲しい。」


幸「分かった。じゃあ雪も私の前では笑っていて
雪の笑顔好きよ」


雪「僕も好きだ。さあ、紅葉を見よう。
凄く綺麗だよ」


幸「そうね。雪が笑えるように一緒に見ましょ」


雪「あぁ。ありがとう」



猫「雪。このままじゃ彼女の夢が長引くだけだ。
早く壊すにゃ」


雪「分かってる。」


猫「記憶を壊すには記憶の壁を切り取る必要がある
この鋏を渡す。幸とお主との間にある壁を切り取れば成功にゃ
その壁は切るべき時に見えるぞ。見逃すな。」


雪「……..。」


幸「ねえ雪、私雪と出逢えてよかった。
だってあなたの笑顔を見ると私幸せな気持ちになるの」


雪「僕もだよ」


幸「ねえ雪。私あなたが…」


猫「今にゃ!!」


雪「うわぁぁぁ!!……..
…僕も…..僕も好きだよ幸…ぅぅ..っ」


猫「….泣くな雪。任務は無事完了しただろう」


雪「どうしても…..壊すのはあそこじゃなきゃダメだったのか…?」


猫「思い出を壊すのは断ち切ると同じ事。
壊した本人が引きずってしまうと後に混乱をもたらす事になるんだ」


雪「…..分かった。」


猫「よし。じゃあそろそろ目覚めるにゃ
幸ももうすぐ起きるだろう。それまでに起きねばここから出れなくなってしまう」


雪「起きた彼女にはもうこの記憶は無いんだよな…」


猫「そう落ち込むな。
お主の記憶の中では生き続ける


さぁ。起きろ雪」



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幸「おはよう雪。今日はすぐに目が覚めたの。
いつも覚えているはずの夢の内容も覚えてないの
雪、私の夢壊してくれたのね?」


雪「うん。…僕の一番大切な記憶だった」


幸「そう…ありがとう。
今日は素敵な目覚めだった」


雪「…….君は残酷だ」


幸「ごめんなさい..辛かったのね?」


雪「いいんだ。君のためだから。」


幸「……。」


==================


幸N「雪はとても辛そうだった。
私を残酷だと言っていた。もしかすると、記憶を消す事はとても大変な事なのかもしれない。
私のどの記憶が消えたのか、私にはわからなかった。
消えてしまったものを取り返すのはきっと不可能なのだ」


猫「にゃーお」




猫「不可能なんかじゃ無いにゃ」


幸「…だれっ..!」


猫「そんなに警戒しなくていいにゃ」


幸「…猫?」


猫「猫は猫でもただの猫じゃ無いにゃ。
夢を翔ける魔法の猫にゃ」


幸「夢を翔ける…?」


猫「そーにゃ」


幸「夢って…もしかして」


猫「物分かりがいいなぁ。


幸「私…雪の力になれますか…?」


猫「なれるとも」(怪しい笑み)


幸「私..夢の中に入りたいです!!」


猫「お安い御用にゃ」


幸「……お願いします…。」


猫「にゃーお」


===================


猫「いいか。ここで様子を見ているんだ。
タイミングを見て出てきてくれ」


幸「はい…!」



雪「猫!!今度はなんだ..?
どの記憶だ…..?」


幸「雪…。」


猫「今回はもう記憶が進んでるんだ。
自然に会話に混ざってくれ」


雪「分かった。」


猫「辛いのはわかるが彼女の為だと思ってやるんにゃ」


雪「分かってる」


幸「彼女の為ってもしかして私…?」



@幸「きゃっ!ごめんなさい..
綺麗な桜だったから上しか見てなくて…」


雪「いや、僕は平気だよ。
こんなに綺麗な桜なんだ。目を奪われるよ」


@幸「えぇ。そうなの。凄く綺麗で」


雪「君も桜みたいだ」


幸「これ…
もしかして..出会った時の……」


雪「こんなに綺麗な桜なのに桜に目が行かないなんて」


@幸「ふふ…口が上手ね」


雪「嘘はつかない主義なんだ。
本当だよ」


@幸「ありがとう。あなたお名前は?」


雪「雪那って言うんだ。
可愛い名前だろう?」


@幸「えぇ。とっても。
私は幸音。私達名前似てるわね..]


雪「運命かな」


@幸「えぇ。きっと」



幸N「その時、キラリと雪の手元で何かが光るのが見えた。
私達の記憶を壊そうとしているというのがすぐに分かった。
しかし私の眼が見ていたのはもう一つの透き通った光だった。」


幸「お願いやめて…!」


幸N「私は気づくべきだったのだ。
どうして私の記憶の中の筈なのに私自身が見えているのかという事に
視線の端で猫が微笑む。彼の記憶の中の私と視線が交わる。
その瞬間、踏み出した筈の足は縺れ頭に耳鳴りが響いた」


幸「….ぁ..っ」


雪「幸…?どういう事だ猫!
何で幸が2人いるんだ…!!」


猫「簡単な事にゃ。
これは雪、お前の記憶だ」


@幸「どういう事なの…」


雪「記憶の中で顔を合わせるとどうなるんだ?
どうして幸は苦しんでるんだ…?」


猫「未来を生きる者の記憶が書き換えられているからにゃ」


@幸「ごめんなさい…私、、帰ります…」


雪「猫…どうしたらいい?
僕は…何ができる」


猫「なにもしなくていいにゃ。
このままいけば彼女は他人となり雪は自由になる。
辛い思いをしなくてよくなる」


幸「私….雪に..辛い思いを..させてたのね…
ごめんなさい雪..私….」


雪「幸…僕のことは良いんだ。
君のために何か出来るなら」


幸「いいんだ….
君の為だから…..雪は私にいつもそう言ってくれてた。
私は分かってなかったのね。
雪がそれを口にするのは自分が何か犠牲になってる時だったこと」


雪「違うよ幸。僕が好きでやってる事なんだから。
君に何か出来るならそれが僕の幸せなんだ。」


幸「ねぇ猫さん。私、彼の負ってきたモノが全て欲しいわ」


猫「にゃはは!!お安い御用にゃ」


雪「お願いだ幸やめてくれ。
君の幸せを僕が守りたいんだ…」


幸「雪私の事はいいの。
あなたの為に何かできるなら。」


猫「覚悟は良いにゃ?
雪の負ってきたものは重いぞ」


幸「えぇ。だってこれは彼が私を愛してくれた
愛の重さだもの。
これからの命彼の愛を抱えていけるのよ。
これ以上に幸せなことってないわ」


雪「お願いだ幸…
お願いだ猫…..やめてくれ」


猫「いやにゃ。どちらのユキも気付くのが遅かった。
それだけの事にゃ」


雪「気付くのが遅かった?
何のことだ」


猫「雪が今まで修復してきた過去は、壊れるべくして
崩れていたもの。」


雪「僕がしていた事は…じゃあ..」


猫「無駄な足掻きに過ぎなかったって事にゃ」


雪「……っ」


猫「ま、我の仕事は終わった。
最後の会話でもしておくにゃ。
目が覚めたら終わりにゃ」


雪「そんな….」


幸「ねぇ雪。雪の目はこんなにも見辛かったのね。


雪「もうそっちに移り始めてるのか..。」


幸「ねぇ雪。私幸せよ。
今まであなたが見ていた景色を今は私が見てる。
貴方の顔さえあまり見えないのに私凄く感動してるの。
今にも涙が溢れそうなくらい。」


雪「幸。僕君が好きだよ」


幸「初めて言われた筈なのにどうして….もうずっと前から
理解してたように感じるの….」


雪「不思議だ」


幸「えぇとても。」


雪「……..っ」


幸「目が覚めてもどうか忘れないで。
心の何処かで感じていて


私、貴方を愛してる。
貴方がくれた全てを愛して生きていく。」



雪「うん。 きっと。」



================


幸N「目を覚ますと白い部屋に一人寝ていた。
彼が胸にいる暖かさを感じて頬が緩んだ。
彼の名前を探して病院内を歩いてみる。
夢に溺れる私の病を負った彼は
きっともう完治して退院したのだ。


あの病気は、私と彼を繋ぐ為だけの病気だったのだから。
きっともう会うことのない未来を思い浮かべて少し目の奥を熱くする。


今年も綺麗な桜が咲きそうだ。
小さな蕾は私の胸を弾ませる。


私に残されたのは小さな小さな夢の記憶と
今にも消えそうな思い出たち。


絶対に無くすことの無い宝物」



幸「愛しています。
心の底から。桜散る下いない貴方に声届くまで」



===============


雪「わ…っ!ごめんなさい。桜があまりに綺麗だったから」



ーEndー

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